


「スフィンクスの平均寿命は6.8年」
CNNまで記事にしたので、見かけた方は多いと思います。迎えるつもりで調べていた人が、ここで手を止めるのもわかります。
ただ、この数字だけだと判断できないんですよね。何匹から出た数字なのか。なぜ短いのか。その「なぜ」に手が打てるのかどうか。
そこを論文まで戻って確かめました。短くなる理由のほうには、けっこうはっきりした数字がありました。
先に書いておくと、この記事はほとんど病気の話になります。スフィンクスを選ぶ人がいちばん惹かれるところ、人にべったりで、よく喋って、膝から離れない。あの性質を否定する話は出てきません。
ただこの猫種は、知っていればやれることがはっきりしている タイプだったりします。そこを先に渡したくて書きました。
順番に見ていきます。
このセクションで分かること:あの数字の出どころと、どのくらい信じていいのか

出どころは、イギリスの動物病院のカルテを集めた大規模な集計です(Teng ら、Journal of Feline Medicine and Surgery、2024年)。2019年1月から2021年3月までに亡くなった7,936匹の猫から、猫種ごとの「0歳時点の平均余命」を出しています。
スフィンクスは 6.68年。表に載った12猫種のなかで、いちばん短い数字でした。
ここは正直に書いておきます。スフィンクスの6.68年は、亡くなった18頭から計算された数字 です。雑種が7,117頭、ブリティッシュが194頭なのとくらべると、かなり心もとない。
数字の幅(95%信頼区間)も 4.53〜8.83年 と広く出ています。
頭数が少ないからといって、この数字を無視はできません。理由は、雑種や長生きな猫種と幅が重なっていない からです。
いちばん長い側の8.83年でも、雑種のいちばん短い側の11.75年に届きません。「たまたま短い18頭だった」で説明するには、離れすぎています。
ただし、重なる相手もいます。ベンガル(7.12〜9.90年)、ノルウェージャンフォレストキャット(7.55〜12.35年)、ロシアン系(7.20〜12.10年)、ブリティッシュ系(8.73〜10.43年)。短い側の猫種とは区別がついていません。論文も結論でスフィンクスとベンガルを並べています。
なので正確には「ぜんぶの猫種より短いと確かめられた」ではなく、「雑種や長生きな猫種よりは短い側にいる」 です。
もうひとつ押さえておきたいことがあります。
この表は 亡くなった猫の記録から作られています。スフィンクスは近年になって人気が出てきた猫種で、論文も世界で人気トップ10に入りつつあると書いています。つまりイギリスにまだ高齢の個体が少なければ、亡くなる猫も若い側に偏ります。
実際この12猫種のなかで、スフィンクスだけ寿命の幅がいちばん狭く(0.13〜14.67歳)、唯一19歳を超えた記録がありません。ほかはどの猫種も19歳超えが出ています。
6.68年という数字の不確かさは、「18頭しかない」より 「まだ年を取った個体が記録に乗っていない猫種だ」 のほうが大きいかもしれません。結論の向き(短い側に寄っている)は変わりませんが、ここは差し引いて読んだほうがいいです。
猫全体の寿命の話は 猫の平均寿命|長生きする子の共通点と今日からできる5つの工夫 にまとめています。
平均余命の数字は、迎えるかどうかの判断材料にはなっても、迎えたあとの行動は変えません。
行動が変わるのは、短くなる理由のほうです。そしてそこには、もっとはっきりした数字がありました。
このセクションで分かること:スフィンクスの心臓について、2つの調査が見つけたこと

肥大型心筋症(HCM)は、心臓の筋肉が厚くなって血液を送り出しにくくなる病気です。猫でいちばん多い心臓病で、どの猫種にも起こります。
スフィンクスについては、症状が出る前の段階で心エコーをかけた調査 が2つあります。これがかなり強い数字でした。
1つめは、パリ近郊のアルフォール国立獣医学校のチームが2004年から2011年にかけて行ったものです(Chetboul ら、Journal of Veterinary Cardiology、2012年)。
心臓の検診に来た スフィンクス114匹 に心エコーをかけた結果がこちら。症状があって来た猫ではなく、検診目的で来た集団です。
– うち肥大型心筋症:23匹(20.2%)
– うち生まれつきの心臓の異常:16匹
5匹に1匹 です。しかもこの114匹、平均年齢は2.62歳。まだ若い集団でこの割合でした。
生まれつきのほうも見逃せません。16匹のうち 15匹が僧帽弁異形成(心臓の弁がうまく作られていない状態)でした。
そして論文は、年齢が上がるほどHCMの割合が有意に増える(P<0.001)とも報告しています。
2つめは2024年の、もっと新しいものです(Seo ら、Animals、2024年)。
ブリーダーと飼い主から集めた 「見た目は健康な」スフィンクス55匹 を、循環器の専門医が調べています。しかもこの研究、同じ猫たちを約1.8年あけてもう一度 調べているのがすごいところです。
1回目の21.8%は、フランスの20.2%(平均2.62歳)とほぼ同じです。そして 同じ猫たちを1.8年追いかけただけで、2割から4割に増えました。
フランスの論文が言っていた「年齢とともに増える」が、同じ集団のなかで起きているのを見た形です。こちらのほうが、2つの調査を並べるより強い証拠だと思います。
ちなみに、ふつうの雑種猫のHCMの有病率は15%くらい、9歳を超えると29.4%まで上がるとされています(これもこの論文に書かれている数字です)。4.0歳で21.8%は、かなり早いです。
調査の途中で3匹が心不全で亡くなり、3匹とも解剖で心筋の広い範囲に血流障害(虚血や梗塞)が見つかっています。論文はキーワードにも心筋梗塞を挙げていて、スフィンクスは心筋の血流障害を起こしやすいのではないか と考察しています。
もうひとつ、同じフランスのチームが出した数字があります。HCMと診断された 344匹・5猫種 を比べたものです(Trehiou-Sechi ら、Journal of Veterinary Internal Medicine、2012年)。
診断されたときの年齢の中央値を並べると、こうなります。
| 猫種 | 診断時の年齢(中央値) |
|---|---|
| メインクーン | 2.5歳 |
| スフィンクス | 3.5歳 |
| 雑種 | 8.0歳 |
| シャルトリュー | 8.0歳 |
| ペルシャ | 11.0歳 |
差は統計的にもはっきりしています(P<0.001)。
そしてこの344匹のうち、15歳を超えて生きた猫は雑種・ペルシャ・シャルトリューだけ でした。メインクーンとスフィンクスは1匹もいません。
ただしここは慎重に読んでください。この344匹は2001年から2011年のフランスで集められたもので、当時スフィンクスはまだ珍しい猫種です。15歳に届く年齢の個体が、そもそもコホートにほとんどいなかった 可能性があります。「15歳まで生きられない」ではなく「この集計では15歳に達した子がいなかった」です。
もうひとつ、同じ論文から。突然死は心臓が原因の死の24%を占めていて、それが観察されたのは雑種・メインクーン・スフィンクスの3猫種だけ でした。
前触れなく起きることがある、ということです。だから「呼吸数を見ていれば必ず気づける」とは言えません。これは次に書く定期検診の理由のほうを、強くする話です。

スフィンクスのHCMには、ALMS1という遺伝子の変異が関係していると言われていて、検査も出回っています。
ところが先ほどのニュージーランドの研究、ここも調べていました。
55匹のうち ALMS1の変異を持っていたのは70.9%(ホモ11匹、ヘテロ28匹)。かなりの高頻度です。ところが、
この集団では、ALMS1の変異とHCMの発症に関連は見つかりませんでした。
つまり変異を持っていない子が発症していたし、持っていても発症していない子がいた。検査が陰性でも、心エコーの代わりにはならない ということです。
正確に書くと「関連がない」ではなく「関連を見つけられなかった」です。著者も、55匹という数では見逃している可能性があると限界に書いています。それでも、陰性を安心材料にできないことは変わりません。
遺伝子検査の読み方は 猫の遺伝子検査|何がわかる?費用とブリーダーへの聞き方 にまとめています。
診断の中央値が3.5歳。そして同じ猫たちを1.8年追うだけで2割から4割に増える。この2つが分かっていれば、打つ手は決まります。
(診断年齢の3.5歳には、「どの猫種が若いうちに検査を受けているか」の差も混ざっています。メインクーンとスフィンクスは繁殖前の心エコーが文化としてある猫種なので、早く見つかりやすい。なので根拠としてはニュージーランドの発生データのほうが固いです)
子猫のうちに1回、そのあとは年1回、心エコーを受ける。 これだけです。
「シニアになったら健康診断を」では間に合いません。3.5歳はまだ若い猫です。
家でできることもあります。寝ているときの呼吸数 を数えておくこと。心臓が弱ってくると、早い段階でここに出ます。数え方は 猫の呼吸数の数え方|寝ているときが30回を超えたら にまとめました。平常時の数を知っておくと、変化に気づけます。
ただし突然死が3猫種にだけ観察されたという話があったとおり、家での観察だけで全部拾えるわけではありません。呼吸数は定期検診の代わりではなく、検診とのあいだを埋めるものとして考えてください。
もうひとつ。心エコーを年1回と決めるなら、通える範囲に心臓を診られる病院があるか を先に確かめておいたほうがいいです。初期のHCMは一般診療のエコーでは拾いにくいことがあります。ここはお迎え前の判断材料そのものかなと思います。
このセクションで分かること:皮膚のケアを、どこに・どのくらいやればいいのか

毛がないぶん皮脂が体に残るので、拭くケアが要る。ここはどのページにも書いてあります。
ただ「どこを拭くのか」は、調べたものとずれていました。
スウェーデンの研究チームが、スフィンクス32匹と雑種の短毛猫10匹 の皮膚から、マラセチア(皮膚にいる酵母の一種)を採って比べています(Åhman & Bergström、Journal of Feline Medicine and Surgery、2009年)。
1匹につき7か所。左右の脇、左右の股、左耳、前足の爪のひだ、前足の指のあいだです。
結果はこうでした。
81%対0%。差がはっきり出たのは 脇・股・爪のひだ でした。
32匹のうち5匹はベタつく脂漏の状態で、その5匹は全員、複数の場所から酵母が出ています。
ここが意外だったところです。
日本語のページを見ると「スフィンクスは耳垢がたまりやすい」とよく書いてあります。でもこの研究、32匹の耳からは1匹も検出されていません。
論文も、スフィンクスとデボンレックスでは耳から酵母がほとんど採れないことには、皮膚の検査をするうえで意味がある、と書いています。
ここ、読み違えないでほしいところです。「耳が汚れない」ではありません。
この研究が調べたのはマラセチアという酵母だけで、しかも耳は左耳1か所。外耳炎のよくある原因である耳ダニや細菌は、そもそも測っていません。論文自身も、この結果は 皮膚の検体をどこから採るかの話 だと書いています。
スフィンクスは耳の中にも毛がないので、汚れを外へ運ぶ仕組みがないぶん耳垢は溜まります。それは別の仕組みの話です。
言えるのは 「ベタつきの原因になる酵母は、耳ではなく脇・股・爪の付け根にいた」 ということ。毎日拭くならこの3か所、耳は耳で定期的に見る、という分け方になります。
黒い耳垢が増える・頭をよく振る・耳をしきりに掻く。このときは拭くのではなく受診してください。
ベタつきが強い・赤い・においが出ているときは、拭くだけで様子を見ないで動物病院へ。酵母が増えすぎている場合は、拭き取りだけでは追いつきません。
このセクションで分かること:ここまでの話を、行動に落としたもの

診断の中央値は3.5歳です。迎えて落ち着いたら1回、そのあとは年1回。これを お迎え前の予算に組み込んでおく のがいちばん現実的かなと思います。
あわせて、寝ているときの呼吸数を家で数える習慣を。
毎日やるなら、濡れタオルでこの3か所。研究で差が出たのがここです。耳は毎日ではなく、定期的に中を見る係に回します。
ベタつき・赤み・においが出たら、拭く回数を増やすのではなく受診してください。
猫アレルギーの主な原因になるFel d 1は、毛ではなく 皮脂腺と唾液腺 で作られます。毛はそれを運んでいるだけです。
なので「毛がないから大丈夫」は成り立ちません。むしろ皮脂が体の表面に残りやすいぶん、どうなるかは分かっていません。
アレルゲンの話は サイベリアンの後悔|アレルギーは出にくい?根拠を原典で確認 でくわしく調べたので、猫アレルギーが心配な方はそちらを先に読んでみてください。同じ猫種のなかでもアレルゲンの量が何十倍も違う、という話をしています。
体温を保つ毛がないので、室温の管理が要ります。日向でずっと寝ていると皮膚が焼けることもあります。
ここは正直に書くと、スフィンクスの体温調節を測った研究は見つけられませんでした。なので「何度に設定」という数字は出せません。ただ毛がないという事実から、寒がる素振りがないかを見てあげるのは理にかなっています。
猫の平熱と測り方は 猫の体温の測り方|平熱38〜39℃と受診が必要な数字 にまとめています。平熱を知っておくと、寒さで下がったときに気づけます。
18頭から出た数字なので、「6.8年で死ぬ猫」と決めつけるのは正確ではありません。実際この集計でも、14.67歳まで生きた子がいます。ただしこの14.67歳、12猫種のなかでいちばん低い最高齢 でもあります。ほかはどの猫種も19歳超えが出ているので、安心材料として強くはないです。
かといって「頭数が少ないから関係ない」でもない。雑種と幅が重なっていないので、そこは受け止めたほうがいいです。
受け止めたうえで、できることは①と②に書いたことに尽きます。
このセクションで分かること:これだけ決めておけば大きな後悔は避けやすい、という8項目
最後の項目について。これはいちばん大事かもしれません。迎えてから家族の誰かが知って揉める、というのがいちばんつらいので。
ここ、調べていていちばん「書かないとまずい」と思ったところです。
40%が見つかったニュージーランドの55匹、どんな猫たちだったか。論文にこう書いてあります。
ほとんどの猫は、繁殖に使う前に循環器の専門医のスクリーニングを受けていた。輸入された繁殖猫は全頭、出国前に心エコーでHCMなしと判定されていた。
そのうえで40%だったわけです。論文も「これだけ厳しくスクリーニングしてきたのにこの有病率なのは、いまのやり方に懸念がある」とはっきり書いています。
なぜそうなるのか。若いうちに検査して陰性を確認し、若いうちに繁殖するから です。HCMは年齢とともに出てくるので、繁殖した後から発症する。
論文が出している提案は、家系をたどって、繁殖ラインの年長の猫を調べること。フランスの研究もニュージーランドの研究も、遺伝のしかたは常染色体顕性で浸透率が不完全(遺伝子を持っていても出ない子がいる)と示唆しています。だから家系で見るしかない。
つまり聞くのは、
ここまで聞いて嫌がられないブリーダーさんなら、信頼していいと思います。
イギリスの集計で出た0歳時点の平均余命が6.68年です。ただし亡くなった18頭から計算された数字で、幅は4.53〜8.83年とかなり広めです。同じ集計で14.67歳まで生きた子もいました。ただし12猫種のなかで最高齢がいちばん低いのもスフィンクスです。「6.8年で死ぬ」ではなく「短い側に寄っている」と読むのが正確です。
発症そのものを防ぐ方法は、いまのところありません。できるのは早く見つけることです。診断される年齢の中央値が3.5歳なので、子猫のうちに1回、そのあと年1回の心エコーを。家では寝ているときの呼吸数を数えておくと、変化に気づきやすくなります。
受けても、心エコーの代わりにはなりません。55匹を調べた研究では変異の保有率が70.9%と高かった一方で、変異とHCMの発症に関連は見つかりませんでした。両親の遺伝子検査が陰性でも、心エコーは必要です。
毛がないことはアレルギーの出にくさと関係しません。原因になるFel d 1は皮脂腺と唾液腺で作られるからです。アレルギーが心配な方は、猫種ではなくその個体で考える必要があります。くわしくは サイベリアンの後悔 にまとめています。
頻度を比べた研究は見つけられませんでした。研究で分かっているのは、皮膚に酵母がいる子が32匹中26匹いたこと、そのうちベタついていた5匹は複数の場所から出ていたことです。毎日拭いてベタつきが出ないなら、それで足りている可能性があります。逆に拭いてもベタつくなら、回数を増やす前に動物病院で相談してください。
費用を比べたデータはありません。ただ年1回の心エコーを前提にする猫種なので、そのぶんは確実に上乗せになります。迎える前に、かかりつけになりそうな病院で心エコーの費用を聞いておくと計算しやすいです。
この記事で出てきたもののうち、次の3つは様子見をおすすめしません。
とくに2つめは、心臓病が進んだときに出るサインです。急ぐ場面なので、迷ったら電話してから向かってください。
3つめについて、ひとこと。スフィンクスには発作性ジスキネジアという、てんかんに似て見えるけれど別の、この猫種で報告されている症状 があります(10匹を調べた報告では全頭が4歳未満で始まり、多くは5分以内におさまり、生活の質には影響していませんでした)。
いっぽうで、ニュージーランドの研究で亡くなった3匹のうち1匹は、同じように体がこわばってふらつく発作をくり返し、てんかんとして治療を受けていました。発作自体は薬で止まったのですが、同じ時期に心臓のモニターが何時間も続く心筋虚血の変化を捉えていて、最終的に心不全で亡くなっています。
どちらなのかは見ただけでは分かりません。 神経の病気として話が進んでも、この猫種なら心臓も一度見てもらってください。症状が続く・繰り返すようでしたら、必ずかかりつけの動物病院に相談してくださいね。素人判断は禁物です。
スフィンクスについて調べて出てきたのは、こんな結果でした。
調べていていちばん強く思ったのは、この猫種は「シニアになったら健康診断を」では間に合わない ということでした。
そしてもうひとつ。「両親の検査は済んでいます」で安心してはいけない こと。40%が出たのは、まさにその条件を満たした猫たちだったので。
逆に言うと、やることははっきりしています。家系の年長の猫のことを聞いてから迎える。子猫のうちに心エコー、そのあと年1回。家では寝ているときの呼吸数。ここを決めてから迎えられるなら、数字に怯えるだけの話ではなくなると思います。
※本記事に掲載している画像の一部は、Google Geminiで生成した画像をそのまま使用、または編集・加工して使用しています。生成された内容は目視で確認し、整合性に問題がないことを確認したうえで掲載しています。
猫と犬と暮らす毎日に、
ちいさな発見を。
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