


黒猫は甘えん坊で、人なつこい。
猫と暮らしている人に聞くと、けっこうな確率で同意が返ってくる話です。検索しても、どのページにもそう書いてあります。
ただ、根拠として挙げられているものがありません。なので調べました。
ついでに、もうひとつよく聞く「黒猫は譲渡されにくい」も一緒に確かめています。こちらのほうが、結果は意外でした。
順番に見ていきます。
このセクションで分かること:毛色と性格を調べた研究が、黒猫について何を見つけたか

毛色と性格を正面から比べた研究があります。2022年にメキシコで行われたもので、飼い主211人に、自分の猫の性格を10項目・7段階で評価してもらっています。
活発、よそよそしい、大胆、おだやか、人なつこい、我慢できない、内気、頑固、寛容、しつけやすい。
黒猫は32匹。その平均点を見ると、いちばん高かったのは 「人なつこい」の5.2点(7点満点)でした。論文の表でも、黒猫の代表的な特性は「人なつこい」と記されています。
ここだけ見れば、世間の印象どおりです。ただ、表の他の列も見てみると、ちょっと話が変わります。
同じ表から、7つの毛色すべての「人なつこい」の点を並べます。
黒の5.2は、7色中4番目(白と同率)。そして代表的な特性として「人なつこい」が挙がっているのは、黒を含めて 7色中5色 ありました。
つまり「黒猫は人なつこい」は、この調査ではほぼ全部の毛色に言えることだったわけです。
ついでに、黒猫の点がいちばん低かった項目も書いておきます。「大胆」4.7と「活発」4.4は、どちらも7色の中で最下位でした。甘えん坊という印象と、まるきり反対でもないのが面白いところですが。
同じ論文の結果にこう書かれています。
毛色のグループ間で比較したところ、性格の各項目に有意な差は見られなかった(p > 0.05)
さらに、著者はその直後に理由を書いています。各グループの人数が小さいこと。黒猫は32匹、いちばん少ないオレンジは16匹です。各グループが5倍の大きさだと仮定して計算し直すと、すべての差が有意になった、とも書かれています。
ただ、この5倍の計算のほうを根拠にするのも違います。人数を水増しすればどんな小さな差も有意に出るので、新しいデータではなく「人数のせいかもしれない」を示すための計算にすぎません。
つまり 「差がない」と確定したのではなく、「この人数では確認できなかった」 が正確なところ。論文の結論も「飼い主から見た性格は、猫の性別や毛色と関係している可能性がある」という書き方です。
同じことを、キジトラの記事でも書きました。そちらでは、縞の猫は「大胆・活発」が最高点でした(【キジトラの性格】「警戒心が強い」の根拠を論文で確かめた)。
もうひとつ、地味ですが大事な点を。
この研究は毛色ごとに「いちばん高かった特性」を挙げています。グレーは内気・よそよそしい・我慢できない。オレンジはしつけやすい・人なつこい・おだやか。縞は大胆・活発。三毛は頑固。二色は寛容。
このリストに、黒は出てきません。 「人なつこい」でトップだったのはオレンジの猫のほうでした。
黒猫の中で相対的に高かったのが「人なつこい」なだけで、他の毛色と比べて突出していたわけではない、ということです。
このセクションで分かること:もうひとつの大きな調査が、黒猫をどう扱っているか

もう1本、2016年にカリフォルニア大学デービス校のチームが行った調査があります。飼い主1,432人から回答を集め、条件を満たした1,274人分を分析して、毛色ごとに人への攻撃的なふるまいの頻度を比べたものです。
より頻繁に攻撃的だと報告された毛色は、三毛・サビ・トービーのメス、そして 白黒と灰白 でした。
ここをよく見てください。「白黒」であって「黒」ではありません。
黒単色の猫は、この中に入っていないんです。
当たり前のようですが、見落とされやすいところだと思います。黒猫の話をするときに「黒っぽい猫」でまとめてしまうと、この区別が消えてしまう。
論文が毛色を分けている以上、白黒で出た結果を黒単色に持ち込むことはできません。逆もそうです。
ひとつ断っておくと、この論文は本文が有料で読めていません。要旨に挙がっている毛色を見るかぎり、という限定つきの話です。
それから、この論文は自分で釘も刺しています。抱っこの場面と動物病院の場面については、毛色による差はほとんどなかった、と。
このセクションで分かること:保護猫を迎える人に関わる、もうひとつの定説

ここからが意外でした。
黒猫は不利だった、という調査
2020年に、アメリカ・ケンタッキー州にある公立シェルター 1施設 のデータを分析した研究が出ています。2010年から2011年に入った猫のうち、分析の条件を満たした 7,983匹 が対象です。
黒猫は安楽死の確率がいちばん高く、白猫がいちばん低い。茶とグレーはその中間でした。黒と白の差は統計的に有意で、大きさも無視できないものだった、と書かれています。
ただ、数字をそのまま書くと誤解を招くので、前提から。分析対象になった7,983匹のうち、70.8パーセントが安楽死 になっています。譲渡は13.1パーセント。この1施設の、2010年から2011年の数字です。日本の感覚だとかなり厳しい。正直、調べていて手が止まりました。
その中での、毛色ごとの差がこうでした。安楽死/譲渡の順です。
黒・グレー・オレンジ・茶は7割前後にかたまっていて、白と「その他」だけが6割台。譲渡率で見ると、白は黒の約1.9倍です。
論文も、意味があるとしているのはここだけでした。毛色全体で見た関連の強さはごくわずか(Cramer’s V = 0.07)で、黒と白の対比較だけが「小さいが無視できない」(V = 0.12)。残りの組み合わせはすべて「無視できる」水準です。
論文は「弱い証拠」という言い方をしています。
全体として、この研究は他の人たちが「黒猫バイアス」と呼んできたものについて、弱い証拠を提供するにとどまる
ここは誤読しやすいところなので、はっきり書いておきます。著者は「だから気にしなくていい」とは言っていません。 同じ結論のすぐ後に、こう続けています。
公立シェルターの黒猫は、譲渡に向けた 追加の後押しを受けるべき だということを示唆している
弱いけれども、黒猫がやや不利な方向での証拠だった、という読み方です。
さらに、ハロウィンの季節に黒猫の引き取りが増える という話も検証していて、1,200匹以上の黒猫を見たところ、10月に譲渡や移送の確率が上がることはありませんでした。
別の指標では、逆向きの結果
2019年に、別の都市型シェルターの2,584匹を分析した研究があります。結論はこうでした。
これまでの報告とは対照的に、白猫のほうが黒猫より滞在日数が有意に長かった
ただ、この2本は測っているものが違います。
ケンタッキーのほうは 安楽死されるか譲渡されるか という転帰。2019年のほうは シェルターに何日いたか という滞在日数です。しかも2019年の調査は、タイトルのとおり 譲渡が決まった猫 を集めたデータなので、安楽死の話はそもそもできません。
だから「どちらが正しい」ではなく、別のことを測った2本と見るのが正確です。
2019年の研究が自分でそう書いています。施設ごとのデータを見て判断するしかない、と。
シェルターごとに、入ってくる猫の構成も、来る人の層も違います。それに 黒猫はもともと数が多い。さきほどのケンタッキーの調査でも、黒がいちばん多い毛色で 2,641匹(全体の33.1パーセント) でした。3匹に1匹です。同じ割合で譲渡されても、残っている黒猫の「数」は多く見えます。
そのうえで、迎えようとしている方に言えることは、たぶんこうです。毛色で遠慮する理由はありません。 むしろケンタッキーの論文の著者は、黒猫こそ後押しが要ると書いていました。気になった子が黒かった、というだけの話だと思います。
このセクションで分かること:日本の言い伝えについて調べた結果
欧米では黒猫を不吉とする見方があって、いっぽう日本では古くから「福猫」として大事にされてきた。よく見かける説明です。
これも調べてみました。ただ、普通に検索して出てくる範囲では、裏が取れませんでした。
出てくるのは商品の紹介文や雑誌系のWebメディアの記述ばかりで、「夜目がきくから」「厄除けとされた」といった説明に出典がついていません。学術論文のデータベースでも、黒猫と福猫の関係を正面から扱ったものは見つかりませんでした。
断っておくと、私が当たったのはウェブで読める範囲までです。 民俗学の文献や江戸期の資料まで調べれば、何か出てくる可能性はあります。そこまでは手が回っていません。
なので「根拠がない」ではなく、「ウェブで見かける説明には出典がついていなかった」 までが、今回言えることです。
このセクションで分かること:毛色の話より役に立つ、具体的なこと

性格が毛色で決まらないなら、黒猫だから気をつけることはないのか。ひとつだけあります。体調チェックの見方です。
猫の具合を見るとき、粘膜の色は大事な手がかりになります。ただ黒猫の場合、耳や鼻のように毛の薄いところの色の変化が、白っぽい猫なら見えるのに見えません。
なので、見る場所を決めておきます。
ひとつ注意を。黒猫は歯ぐきや肉球も色素が濃いことがあります。 その場合、そこだけ見ても変化が読めません。だから全部について「その子のふだんの色」を先に見ておくのが大事で、いざというときに比べられるようにしておきます。
歯ぐきや白目が白っぽい、灰色がかっている、黄色っぽい。 こういうときは様子を見ずに、その日のうちに動物病院へ連絡してください。貧血や出血、黄疸のサインのことがあります。素人判断は避けたいところです。
具体的な見かたは 【猫の脱水の見分け方】つまむ場所と歯ぐきの見かた にまとめました。
あと、これは実用というより余談ですが、写真が撮りにくいです。表情が飛びます。明るいところで、斜めから光を当てると輪郭が出ます。
このセクションで分かること:迎える前に聞いておくと役に立つこと
毛色で判断できないなら、何を見るのか。保護猫のお見合いや譲渡会で確認できることに絞ると、この3つです。
① その子が、いまどのくらい人に寄るか
預かりボランティアさんの家で暮らしている子なら、ここがいちばん当てになります。「抱っこできますか」ではなく「同じ部屋にいるとき、どのへんにいますか」。距離の取り方のほうが素が出ます。
② 母猫と、いつまで一緒にいたか
分かるなら聞いてください。性格に効くことが分かっている数少ない要因です。分からないと言われることも多いですが、それ自体が情報になります。くわしくは 【キジトラの性格】「警戒心が強い」の根拠を論文で確かめた に書きました。
③ ふだんの歯ぐき・白目・肉球の色
黒猫ならではの質問です。迎えたあとの比較の基準になるので、できれば写真を撮らせてもらうと確実です。
逆に、毛色については聞かなくていいと思います。ここまで見てきたとおり、そこからは何も分かりません。
このセクションで分かること:黒猫についてよく出る疑問
毛色による性格の差は、統計的には確認されていません。ただ211匹の研究で、黒猫の飼い主が付けた点がいちばん高かった項目は「人なつこい」でした。方向としては合っていますが、他の毛色と比べて突出していたわけではありません。
毛色で決まるものではないと思います。1274匹の調査で攻撃的と報告された毛色に黒単色は入っていませんが、それは「黒は穏やか」という意味ではなく、差が見つからなかったという意味です。
黒一色になる猫種は、ボンベイのように黒だけの品種から、ペルシャやメインクーンのように黒の個体がいる品種まで幅があります。雑種の黒猫がいちばん多いです。毛色は品種とは別の話なので、「黒猫」という品種はありません。
欧米の言い伝えで、根拠はありません。日本では逆に福猫とされてきたという説明もよく見ますが、こちらも一次史料は見つけられませんでした。どちらも言い伝えです。
数は多いです。アメリカのある公立シェルターの調査では、黒がいちばん多い毛色で全体の33.1パーセントを占めていました。3匹に1匹です。同じ割合で譲渡されても残っている数は多く見えるので、「残りやすい」ように感じる一因かもしれません。
毛色で選ぶ理由も、毛色で避ける理由も、いまのところ見つかりません。好きな柄で選んでいいと思います。
参考にした資料
※本記事に掲載している画像の一部は、Google Geminiで生成した画像をそのまま使用、または編集・加工して使用しています。生成された内容は目視で確認し、整合性に問題がないことを確認したうえで掲載しています。
猫と犬と暮らす毎日に、
ちいさな発見を。
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