


お刺身を用意していたら、 目を離したすきにイカが一切れ消えていた。
で、 検索すると出てくるのが 「猫がイカを食べると腰を抜かす」。
焦って開いたと思うので、 先に結論から書きます。

食べたものによって、 気にすべきことが変わります。
ほとんどの方は1つめだと思います。 そのうえで、 この言い伝えを調べていったら 思っていたのと違う話 が出てきたので、 そこも書いておきます。
言い伝えの中身はこうです。 ビタミンB1(チアミン)が足りなくなると、猫に神経の症状が出る。 これは本当で、 獣医学の総説にもはっきり書かれています。
ビタミンB1はちょっと特殊な栄養で、 同じ総説にこうあります。
> ビタミンB1は、 それを壊す酵素が進化してきた唯一のビタミンである
この チアミナーゼ という酵素が、 ビタミンB1を分解して使えない形に変えてしまう。 犬も猫も体内でビタミンB1を作れないので、 食事から取るしかありません。 しかも 猫が必要とする量は、犬の2〜4倍 とされています。
だから「生の魚介を食べ続けるとビタミンB1が足りなくなる」という筋道自体は、 まちがっていません。

ここが、 調べていて意外だったところです。
さきほどの総説がチアミナーゼの在りかとして挙げているのは 「死んだ魚の肉、一部の貝類、細菌」 で、 イカは出てきません。 論文全体を検索しても、 イカ(squid)という単語は一度も登場しませんでした。
さらにさかのぼると、 こういう状況でした。
つまり「イカにチアミナーゼが入っている」は、 広く書かれてはいるものの、 たどっていくと 元のデータに行き当たりません。
ビタミンB1欠乏そのものは実在します。 報告されているのは 生魚を主食にしていた犬やキツネ のケースです。
その「生魚を食べ続けると危ない」という事実が、 日本の食卓でいちばん身近な生の魚介、 つまりイカに結びついて広まった。 そう考えるのが自然かなと思います。
なので「イカだから危ない」ではありません。 危ないのは生の魚介を主食にすることで、 イカはその代表として名前を借りているだけ、 というのが実態に近そうです。
> このセクションで分かること:どこで気づけるのか

仮にビタミンB1が足りなくなったとしても、 ある日突然腰が抜けることはありません。 総説によると、 進行は3段階です。
嘔吐、 元気がない、 食欲が落ちる。 神経の症状はまだ出ません。 ほかはふだんどおりに見えることもあります。
急速に悪化して、 補充しなければ数日で亡くなります。
これが猫に特徴的なサインなんですが、 猫は毛づくろいでも食事でも首を下げるので、 言葉だけだと分かりにくいと思います。 目安はこれです。
> 名前を呼んでも顔を上げられない。 あごが胸についたままで、 持ち上げてもすぐ落ちる。
これが出ていたら、 原因がビタミンB1かどうかに関係なく急ぎの状態です。
総説にこう書かれています。
> ビタミンB1欠乏の症例のほとんどは、 終末期になってから診断されている
①と②を見逃したまま進んでしまうことが多い、 ということです。 逆に言えば ①で気づければ間に合います。
ちなみに 血液検査には出にくい です。 一般的な血球検査や生化学検査は、 長く欠乏していても正常のことがあると書かれています。

ビタミンB1の話が独り歩きしていますが、 猫がイカを食べたときに現実的に起きるのは、 だいたいこちらです。
イカやタコは猫にとって消化しにくい食材です。 加熱しても変わりません。 まとまった量を食べれば嘔吐や下痢の原因になります。
乾物は固くて、 猫の歯では噛み切れないまま飲み込みがちです。 食道や胃に引っかかることがあります。 塩分もかなり高いので、 腎臓や心臓に持病のある子にはそれだけでも負担です。
こういうサインが出たら、その日のうちに受診してください。
ツマや薬味にネギや玉ねぎが入っていることがあります。 猫にとってはこちらのほうが危険で、 しかも 症状が出るのは数日後 です。 心あたりがあれば 猫が玉ねぎを食べた|症状は数日後・中毒量と受診の目安 を見てみてください。
人ではおなじみの寄生虫です。 猫での症例報告は確認できませんでしたが、 嘔吐やよだれが続くようなら、 イカを食べたことを伝えたうえで受診してもらえたらと思います。
ビタミンB1の話でいえば、 量より 続けたかどうか です。 おかずとして時々ではなく、 生の魚介が食事の中心になっている状態が1〜2週間続くと危ない、 というイメージでいてください。 一方で消化の悪さや塩分は、 一度にまとまった量を食べたときに問題になります。
チアミナーゼは熱で変性します。 ただし総説には 「感受性に差があり、加熱が不十分な魚ベースの食事でもリスクはありうる」 と書かれています。 さっと湯通ししただけでは安心材料になりません。 それに消化の悪さは加熱しても残ります。
大丈夫です。 製造の過程で加熱されていますし、 ビタミンB1は栄養基準を満たすよう配合されています。 総合栄養食を食べているなら、 この記事の心配は基本的に不要です。
生の魚介を中心にしているなら、 ビタミンB1の補給を獣医師に相談してみてください。 時々のおかずなら問題になりません。
補充を始めて数時間で改善しはじめることがあり、 ある症例では17匹中13匹が1週間以内に明らかによくなっています。 ただし 神経の症状は治療後も数日から数か月残ることがあり、軽いふらつきが2年続いた例 も報告されています。 早く気づくことがすべてです。
盗み食いの一切れで、 いますぐどうこうなることはありません。 言い伝えを気にするより、 スルメを放置しないほうがずっと実用的だと思います。
嘔吐や食欲の低下が続くとき、 歩き方や首の角度がおかしいときは、 かならずかかりつけの動物病院に相談してくださいね。
※本記事に掲載している画像の一部は、Google Geminiで生成した画像をそのまま使用、または編集・加工して使用しています。生成された内容は目視で確認し、整合性に問題がないことを確認したうえで掲載しています。
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